2008-09-07

WCアジア最終予選 第1

バーレーン 23 日本

分析・文責

俊一朗

1.マッチレポート

 4大会連続のWC進出に向けて、日本代表の厳しい戦いが始まった。日本国内では「絶対に負けられない戦い」などと言われ、まるでWC出場は至上命題のような雰囲気さえも漂っている。たった10年前にWC初出場を果たしたばかりの日本がそんな生意気なことを……と思う反面、ひとたび試合が始まってしまうと、目の前の選手たちに怒鳴っている自分がいるのに驚く。やっぱり“最終予選”の四文字には僕たちを熱くさせる魅力がある。

 初戦の相手はバーレーン。近年(主に、地理的に近いアフリカからの)帰化選手を軸に、徐々に力をつけてきており、日本も3次予選のアウェーゲームでは敗戦を喫した。岡田監督もそのことを引き合いに出し、この重要な緒戦に「背水の気持ちで臨む」とした。TVを始めとする諸メディアは戦前、前回喫した失点の場面を繰り返し流し、バーレーンの強さを誇張した報道を繰り返していたが、僕の目にはそれほど脅威のあるチームには写っていなかった。確かにDF陣に高さがあり、攻撃陣には足の速い選手が何人かいるけれども、それだけだ。身体能力で劣っているのはいつものことだし、だいたい中盤の選手たちは皆、技術的にも経験の面でも日本が圧倒的に上だ。前回のようにロングボールを蹴りあうような展開にならなければ、絶対に日本が勝つだろう。それが僕の予想だった。

やっぱり遠藤は“そこ”でなくっちゃ

日本のスタメンはGKが楢崎。DFが右から内田、中澤、闘利王、阿部。中盤の底に長谷部と遠藤が入り、攻撃的な位置には中村(俊)が右で、松井が左。最前線には玉田と田中の俊足ペアだ。よしよし、ちゃんと前回の反省を生かした布陣だぞ。前回は自ら3CBにして、内田&安田の両WBの裏を突かれまくったのが敗因だったからな。トップの人選も素晴らしい。相手のCB陣には高さはあるが、スピードには欠ける。玉田と田中は今考えられる最速の2トップだ。巻が出てきたらどうしようかと思った。そして遠藤を中盤の底に持ってきたのは大正解。彼はチーム全体をコントロールできる選手だし、何よりこれで今日は中盤のあるまともな試合を見られるわけだ。

一方のバーレーンは前回と同様、日本の2トップを3人の屈強なCBで抑え、また攻撃も彼らが放り込むロングフィードのこぼれ球を拾うところから始まる。これがわかっている日本は、今日はきっちりと田中達也が早めに潰しに行き、いい形でロングボールを蹴らせない。こぼれ球は遠藤の元に、日本はそれほど労せずにボール支配率を高めていく。

上がらない内田

そうやって奪ったボールを右サイドの俊輔に預けて、彼が中に切り込んで出来たスペースに内田がオーバーラップを……あれ、内田が上がってこないぞ。それどころか俊輔は前を向くとすぐに相手3バックの裏のスペースにパスを出し、FWを走らせている。序盤は何度もこの攻撃を繰り返す日本。その結果、バーレーンはどんどんDFラインを後ろに下げ、俊輔や松井が簡単に前を向けるようになった。ああ、なるほどね。こうすればもし攻撃の途中でインターセプトされても簡単にSBの裏は取られないし、2トップの足も活かせるってわけか。それにしても「SBは上がらない」って決まりごとはよく徹底されていた。試合全体を通して内田が前線に顔を出したのは1、2回だし、そもそも左SBには長友ではなく阿部を使ってきた岡田監督。遠藤の中盤の底での起用といい、今日の試合で何をやろうとしているかを明確にあらわした、いい采配だと思います。

俊輔、フリーキック一閃

 バーレーンDF陣がずるずる下がって出来たゴール前のスペースに、松井や俊輔がドリブルで侵入し始める。前を向いた彼らを止めるのは難しく、決定的なパスが何本か出るものの、なかなかシュートまでは持っていけない。せっかく自分たちでいい攻撃の形を作ったのだから、何とか先制点を取りたい日本。そんな中前半18分、この試合初めてのFKのチャンス。相手ゴールから見て左、約35メートル地点。直接狙うにはちょっと遠いかなあという距離。ポイントには遠藤と俊輔。遠藤が蹴るそぶりをしてボールをまたぎ、タイミングをずらしたところで中村が左足を一閃。低く、地を這うような弾道で、相手GKが右手を伸ばしたときにはすでに、ボールはゴール右隅に突き刺さっていた。

 コースの厳しさはもちろんのこと、タイミングのはずし方が絶妙だった。セットプレー以外での得点の形が少ないことがよく欠点に挙げられているけれど、だからこそなおさらこういうチャンスを確実に決めてくれる俊輔の存在が際立つ。これから日本とやる相手は、ゴール前で不用意にファウルはしないことだね。

もういいよ、テレ朝

 さて、先制されたバーレーンはどう出てくるのか。それを見極めるのにこれからの数分は選手にとっても見る側にとっても大事な時間帯だ。しかしここから3分間、僕たちは延々と俊輔のFKを見せられることになる。確かにいいゴールだったけれど、連続で3回も見せられてはその感動も薄らいでしまう。何より試合はもう再開している。リプレイというのはゴールが決まった直後に一度、そしてすぐ試合の映像に戻り、何らかの形でプレイが途切れたときにもう一度流すのが定石だ。それは試合の流れを断ち切らないようにするための最低限の配慮ではないのか? これ以外にも不要なアップ映像の多用や、全然関係ないところで日本のゴール・シーンのリプレイを流すなど、試合を一つの“流れ”として捉えようとする姿勢が欠けている。本当にそれで視聴者が喜ぶと思ってやっているのだろうか。また日本に不利な判定のたびに、実況は審判や相手選手を非難し、解説者もそれを咎めようともしない。それらは自己満足であり、決して日本を“応援”することになどなっていないと思うのだが、皆さんの目にはどう映っているのだろうか?

バーレーンと日本、それぞれの限界

話が逸れてしまった。結局、バーレーンはゲームプランを変えることなく、0−0の時と同様に放り込みからのセカンドボールにすべてを賭けていた。多分良くも悪くもこれがバーレーンの形なのだろう。中盤の選手にもう少し気の効いた選手がいれば、サイドチェンジ等で日本のCB2人を釣り出すことも出来たのだろうが、その選択肢はなかった。結果単発でのクロスは何本か上がるものの、中澤か闘利王にことごとく跳ね返される。

方や日本も中盤を制し、何度もいいパスワークでゴール前に迫るもののなかなかシュートまで持っていけない。主にその原因は3つである。一つは、ミドルシュートを打たないこと。DFラインをゴール前に釘付けにして、バイタルエリアを開けたまではよかったが、今度はゴール前に人がいすぎて邪魔になってきた。松井はともかく、俊輔は正確なミドルを持っているのだから、強引にでも打って相手DFを釣り出す努力をするべきだった。次は先述したように、SBの攻撃参加の欠如である。最もこれは決まりごとなので仕方がないのだけれど、やはりそれではどうしても攻撃に厚みが出ず、決定的な数的優位を作り出すには至らなかった。最後に、2トップ間の連携の無さを指摘したい。今の日本の攻撃は、中盤の2人とトップのどちらか1人が絡んでくるものがほとんどで、2トップの動き出しの連続性からパスを引き出し、どちらかがフリーになろうとする動きはまず見られない。最終予選の段階では中盤もある程度の時間攻撃にかかわってきてくれるが、WCなどで強豪を相手にする場合、FWはほとんどの時間帯、自分たちより多い人数のDFを相手にすることになるだろう。そういったとき、鍵になってくるのが2トップ間の動き出しの連続性なのだ。それがバッチリシンクロして、後ろからパスが来た時、日本はイタリアからでも得点を取ることができるはずだ。当面の相手としては、オーストラリアのDF陣を相手にした時、日本の2トップがどこまでやれるかに期待したい。今日の玉田と田中の俊足コンビは、一人ひとりのボールの受け方や引き出し方はいいものを持っているが、いかんせんタイプが似すぎて、同じタイミングでもらおうとする場面が多かった。それでも、コンビで多くの試合をこなしていけば、おのずと連携は向上するであろうが。

日本、ラッキーな形で追加点

 日本は攻めながらもなかなか追加点が取れないいやな展開。しかし、バーレーンの方もまったく得点の匂いがしない。と思っていたら、俊輔が中盤の低い位置でボールを奪われ、ほぼフリーでミドルを撃たれるも、これはGK楢崎がセーブ。ちょっとまずい雰囲気になるかなあと心配していると、またもや左から突っかけた松井がエリアのすぐ外で倒され、FK獲得。前半終了間際の42分、キッカーは遠藤。直接には角度が無いが、何でも出来そうな距離。中澤と闘利王も上がってきて、頭に合わせてくるかと思いきや、PKマーク付近で一瞬フリーになった俊輔にパス。俊輔がそれを左足ダイレクトでシュート。するとそれをバーレーンの12番の選手が体に当て、勢いを失ったボールをキーパーがセーブ。ああ残念と思っていると、レフェリーが笛を吹き、どうやら日本がPK獲得。確かにスローで見ると12番の手に当たっているけど、多分これは故意じゃない。ちょっとかわいそうな判定。まあその選手にカードが出なかったのが救いか(ちなみに、相手のシュートを手で止めた場合普通はレッドカードで一発退場。でも今回はイエローすら出されず、ちょっと矛盾しているが、個人的には試合を壊さないよいレフェリングだと思った)。

 とにかくこのPKを、監督から御指名を受けたヤットさん(遠藤の愛称)がしっかり決めて、結果的に日本は前半の終了間際という最高の時間帯に追加点を決めることになった。

今日の日本の出来を考えれば、ここからの負けは無いかなという感じで、前半終了。

俊輔、リーダーとしての自覚

さて後半、実は最後の15分ぐらいまではあまり動きが無かった。確かにバーレーンは後半開始直後10分ぐらい攻勢に出てきたが、それは想定内の範囲で、であった。つまり、DFがあわてるシーンはそれほど多くなかったということだ。2点差の余裕からか、日本守備陣は冷静な応対を見せ、特に中澤は最後のところでいつもバーレーンの選手をフリーにはしてくれなかった。この時間帯目に付いたのが俊輔の守備面での貢献度の高さ。右サイドから攻められた時にはもちろん、逆サイドからのクロスの際にもしっかりと帰陣し、相手をマークしていた。地味なことだが、これをやってくれたおかげで同サイドの内田はかなり助けられた。逆サイドの松井がたびたび守備をサボり、阿部に負担を強いていたのは対照的(もちろんこれは監督の指示である可能性もあるが)。俊輔は昔からしっかりと守備に戻って来れるMFだが、これを彼が試合展開を見て、チームのために行ったことに価値がある。いつのまにか彼もこのチームのリーダーの一人になっていた、ということだろう。

ハラハラドキドキ

 後半の30分頃、疲れの見えた松井に代えて、中村憲剛を投入。今日の松井は前半から無駄なファウルが多く、イエローを頂戴し次節は出場停止。ちょっと気合が空回りしていた、という印象。さて憲剛はそのまま松井の位置へ。DFの裏には大きなスペースがあり、彼に対するマークも緩い。そしたら憲剛の独壇場。ピッチに立つや否や、スルーパスを連発し、何度も決定機を演出。この時間帯での憲剛投入は大正解。岡田監督、ナイス采配。

 憲剛投入でリズムを取り戻した日本は疲れの見えるバーレーンに止めをさそうとまた攻め始め、俊輔にかわされた2番のDFが本日2枚目のイエローを頂戴し、退場。数的優位を何度も作り出しながら、結局3点目は憲剛のミドルが相手に当たって入ったものなのは皮肉。だからもっと早くミドルを打ちなさいって。

 その後も長谷部と田中が連続でバーに当てるなど、得点の匂いがプンプン。

ここで疲労困憊の玉田が、佐藤寿人と交代。まあ玉田はずっとDFラインに脅威を与え続けていたし、まあ及第点。でも今日の展開だったらもっとシュート数が増えてもいいんじゃあないかな。まあ玉田にはミドルが無いから、今日みたいに相手に引かれるとしんどいかもね。玉田もだけど、早く俊輔を代えてあげなさい。もう彼はフラフラです。

 あとはゆっくりと時間を使って気持ちよく完封かなんて思っていると、流石に疲れてフリーにしてしまった中盤の選手から絶好のフィードが前線に。中澤&闘利王、内田の3人と、相手FW2人の数的優位も、もはや立っているのが限界の内田があっさりと飛び込んで、失点。まあ物事はそんなに思い通りには行かないものなのです。

 まあそれでもまだ2点リード。ここで長谷部に代えて今野がピッチに。おいおい、俊輔を残すのかよ。彼はもはや前線で立ち尽くしているだけです。さすがの田中ももうボールに厳しいプレッシャーはかけられないし、元気な佐藤はなぜか右サイドのタッチ際に張っている。これは多分ボールを引き出すために監督の指示でやっているのだろうけど、これだとプレスをかける人がいなくなるのでは? 案の定バーレーンはロングボール入れ放題。何回目の試みで、見事闘利王のオウンゴールをゲット。楢崎が出てきているのに、闘利王はヘッドでGKにバックパス。結果、ゴールは無人のゴールへ。これでまさかの1点差。しかも残りはまだ2分+ロスタイムもあるぞ。

今日の試合で得たもの

 残り時間は何とかボールを回して時間稼ぎ。結局逃げ切るも、最後相手が11人いたら危なかったかも。試合後のインタビューで俊輔も言っていたけど、選手交代のやり方を含めて、最後の10分の闘い方に課題が残った感がある。

 それでもこの35℃の高温の中で最後まで闘いきった選手たちの気持ちは本物だ。結果として勝ち点3をとったこともそうだが、監督だけでなく選手一人ひとりが前回の敗戦を教訓とし、その反省点を踏まえ、対策をしっかりとピッチ上で示せたということが大きい。前回の試合で日本を破ったバーレーンは、今回もまったくやり方を変えずに来たが、日本はそのサッカーを研究し、それに備えた。そしてバーレーンは日本の対策を切り崩す手を持っていなかった。だから今日は勝つことが出来た。しかし次の対戦ではどうなるかわからない。この数ヶ月間で、チームの力がどう変化してもおかしくない。それが最終予選だ。

 次節は1015日、ホームにウズベキスタンを迎える。

日本が好スタートを切ったことは間違いないが、まだ7試合も残っている。先は長い。

むすびにかえて

 最終予選は今後、すべての試合をテレ朝が放映することに決まっている。この予選を通じて日本代表は様々な試合を経験し大きく成長するに違いないが、放映する側もそうあってほしいものだ。テレ朝もある意味で日本を代表して試合を放映するのだから。サッカー文化というものはピッチ上の選手たちだけで作っていくものだろうか? いや、そんなことはないだろう! 約二時間、一つの試合をテレビで見るというのはある種の娯楽である。いかに選手たちが質の高い試合を見せてくれても、それを撮るカメラマンの技術やスイッチャーの判断、実況・解説の一言によって台無しにしてしまうことが日本では珍しくない(特に、民放はよくやる)。しかし逆に試合をあるがままに捉え、それに味付けをする事だって出来るのだ。98年のフランス大会がそうだった。この大会は選手たちの技術が高く、面白い試合が多かったが、国際映像による高度なキャメラ・ワークも光っていた(具体的に言えば、抜群のタイミングでのアップ画像の使用など。ゴール・シーン以外でも、激しいボール際の攻防を抜いていた。これは日本ではまず見られないことで、新鮮味があった)。また、NHKの山本浩氏の実況は試合の背景を豊かにした。

テレ朝にはこれをチャンスと捉えて、頑張ってほしいものだ。


2.選手個人採点・寸評

10点満点で評価し、6.0を及第点とする。☆…MVP、★…準MVP

<日本代表>

GK 楢崎    6.0 前任者の川口に比べ、クロスの対応に安定感が見られた。

DF 内田    6.0 攻撃参加は少なかったが、守備面では及第点。スタミナに不安あり。

  ★中澤      6.5 危ない局面にはいつも彼がいた。アジアの戦いでは安定感抜群。

   闘利王    6.0 空中戦の強さが光った。カバーリングの面では向上の余地あり。

   阿部      6.0 無難に仕事をこなすも、11で抜かれる場面も少なくなかった。

MF 長谷部    6.0 遠藤の横で淡々とプレー。“潰し屋”としての狡猾さが欲しいところ。

  →今野      ――

   遠藤      6.5 中盤の底でゲームを落ち着かせ、攻撃にリズムを与えていた。

  ☆中村(俊)7.0 FKでの先制点のみならず、守備でも大いにチームの勝利に貢献。

   松井      5.5 不要なファウルが多く、リズムに乗り切れず。気合いは入っていた。

  →中村(憲) 6.5 途中出場すると、決定的なパスを連発。結局彼のミドルが決勝点に。

FW 玉田      6.5 得点こそなかったが、彼のスピードは相手FWに脅威を与えていた。

  →佐藤      ――

   田中      6.5 90分間激しくプレスをかけ続け、守備面での貢献が目立った。

監督 岡田武史 6.0 前回の教訓を生かして、しっかりとゲーム・プランを立てていた。

          しかし憲剛投入以外の選手交代に意図が感じられず、それが終盤に

          相手の追撃を許す原因となってしまった。

<この項、了>

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